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第6章

仕事バカになる

自動車整備工場というのは、構造的な不況業種のひとつなんです。車って、1年で技術革新が進むんですよ。僕が入ったころはすぐ壊れていたのが、メンテナンスをちゃんとやっていれば、全然壊れない。それくらい品質がよくなってきたんです。鉄板ひとつとっても錆びないしね。整備の需要っていうのはなくなってきてるので、普通の整備工場は8割くらいは赤字です。その中で、結果的に、ナカノオートは赤字を出さずにここまできました。

当時、昼間は整備をやって夕方になると背広に着替えて、お客さんのところに訪問して受注活動していました。車検させてくださいと言ったり、車を売ったりね。いろいろとやって、業績を保ちました。赤字にするわけにはいかなかったんです。というのも、商売をやる上ではどうしても資金が必要になりますよね。うちのような仕事だと、車がどんどんよくなっていくと、整備の機械工具もそれに合わせて買わないといけない。そうすると、すぐ100万、200万必要になるんですよ。

仕事バカになる

そういう資金は金融機関から借りるしかないわけです。景気がいい時代で、銀行が金を貸すには不動産担保が絶対的条件でした。でも僕は借家住まいだから銀行に差し出す担保がない。決算書と親の信用だけなんです。金利も非常に高利でしたが、それでもやっていくしかなかった。親が保証人になっても、決算書が赤字だったら銀行はお金を貸してくれません。僕の給料は普通の社員よりも安かったです。経費を抑えるという意味でね。そういうことをして、決算書だけはなんとか赤字にはしませんでした。40数年間、黒字を続けた企業はそうありませんよ。

同業他社との差別化は社員

平成7年に、全国FCの車検のコバックに加盟しました。そのころ、脱車両法経営というのが盛んに言われていてね。法定需要に頼って経営してちゃ駄目だよ、という意味です。それでみな販売に注力した時期がありました。でも販売すればアフターサービスが必要になる。整備はカービジネスの基本と思い、うちは整備を主力事業として顧客を増やそうとなったときに、コバックに入ったんです。

そのときは社員からすごく反対されました。コバックは低価格戦略なので、粗利が2割くらい落ちる。これはきつい。だから駄目だというわけです。でも僕はやると決めていましたのでね。当時の工場長と一緒に本部に行って反対する彼をなんとか口説いて。他店よりも安いんだからお客が来て当たり前だろうとなりがちですけど、品質はいい、なおかつ対応もいい、というふうにしないといけないと考えました。低価格戦略だけじゃなくて、接客対応や整備品質を高めるための人材教育なども併せてしっかりやりましょうということでね。

僕はコバックを始めた3年半で60日くらいしか休んでないんです。自分の人生にプレッシャーをかけたんですよ。本部の社長からは、予算が続く限り毎週チラシを折り込めと言われてました。頑張ってチラシを作って、休みの日でも予約が入るのが楽しみで、会社に出てました。失敗できないし、したら終わり。それくらいの覚悟で仕事をしてました。結果的に、大変成功したと思いますね。同じようにやっても失敗した会社もあります。何がよかったかといえば、やっぱりお客様の期待に応えようと努力する社員ですね。それが一番大事ですよ。

私が考えた経営の基本戦略というのは、集客戦略とそれに続く顧客満足度戦略、固定化戦略、発展戦略です。集客戦略というのはコバックのものでもあって、コバックは折り込みチラシで集客するんですよ。その先にあるのが、満足戦略。つまり、来たお客さんを徹底的に満足させる。そして来店頻度を増やし固定化させて顧客になっていただこうという戦略、これが固定化戦略です。車検は2年に1回なので、その間の来店を増やしたいから、いろいろなキャンペーンをやったりしてね。そして、車検で来たお客さんに、冬になればスノータイヤもうちで買ってもらったりするのが発展戦略。最終的には車の代替えまでお手伝いさせていただく。そのサイクルでつなげていこうと。点ではなくて線で接していこうという戦略でやっていってるわけです。その中で、社員の態度が悪いとお客さんが離れていくわけですよ。でもうちは、今では7割ぐらいが固定化されてます。もうチラシも配らなくていいくらいです。

整備士の資格で取得が難しく花形なのが自動車検査員です。指定工場には必ず1人検査員がいなきゃいけない。普通の会社だと、指定工場でも1、2人しかいません。でもうちは、社内に9人検査員の有資格者がいます。うちに入ってから資格を取らせたりして、社員に積極的に勉強させてるんです。資格を取れば、資格手当も出ますから。僕は、整備士なら検査員取らなかったら話にならんと言ってます。僕自身は検査員取ってないんですけどね(笑)。検査員が9人いるというのは、他社にはありません。同業他社との差別化としてよくやれていると思います。僕らの上部団体で整備コンクールがあるんですけど、うちの工場長が新潟県代表で出ています。そういうことからも、当社の技術力や知識力というのは高いと思いますね。